男子大学生の中絶体験記
【知っておきたい妊娠と中絶のこと】
筆者(ユウスケ氏)が大学生の時に、彼女の妊娠中絶手術を共に経験した時の記録を、男性側の目線で書き記した体験談です。
少しでも、妊娠された方や中絶をお考えの方にとって、後悔のない選択ができる手助けになれれば幸いです。
ひたすらアルバイトに追われる毎日
僕は人工妊娠中絶手術のために親に約25万円を借りていた。
そのお金を返すために、彼女と子どもに向き合う傍で日雇いのアルバイトなどをしていた。
サークルを辞め、学業以外の全ての時間はアルバイトに使うようにしていた。
スーパーの試食販売をしたり
工場で簡単な作業を延々としたり
居酒屋で深夜まで働いたり
少しでも早くお金を稼げるようにとスケジュールいっぱいに仕事を入れて働いていた。
結局はやらなかったけれど、時給の高い治験の求人もよく見ていた。
必死に何かをして生きていくのが罪滅ぼしのつもりだったのかもしれない。
25万円の借金を返済するのに、3ヶ月もかからなかった。
学生でも、空き時間に予定を詰めて働けば、週40時間以上は働くことができる。
時給1000円でも、月給15万円以上稼ぐことは無理なことではない。
失われていくアイデンティティー
一方で、自分のアイデンティティが失われて行くのを日々感じていた。
サークルも辞めてしまい、趣味に使う時間も一切とっていなかったので、本当に大学とバイトしかやっていなかった。
友達との「壁」
サークルを辞める理由も、親友以外にはいっていなかった。
『色々と事情があったから』と濁していた。
僕が中絶を体験していることを知っている人と知らない人とで大きな壁が生まれた。
ほとんどの友達には話していない。
申し訳なさから、あまり仲良くし続けることもできなくなっていった。
当然である。
理由もなくサークルを突然辞めて、その理由をちゃんと話してくれなければ、それまでの信頼は徐々に失われていく。
「言えない過去」が引き起こす矛盾
アイデンティティーの喪失を最も実感したのが、就職活動の時だった。
就職活動では、学生時代に頑張っていたことをよく聞かれる。
会社によっては、「モチベーショングラフ」という、時系列ごとの出来事とモチベーションの変動を書かされる。
僕にとって学生時代に1番頑張ったことは、産むための準備や彼女と必死に向き合うことだったと思う。
それに比べたら、普段の大学の授業やサークルでの活動は「頑張った」のレベルが違いすぎる。
中絶の経験が、自分自身の価値観を大きく形作っているし、人生観を変えたと思う。
自分の人生で1番の原体験になり、仕事をする上でのエネルギー源になると思う。
それをうまく伝えたいのだが、言えるはずもない。
だから、それっぽいことしかいうことが出来なかった。
嘘ではないが、薄っぺらい過去の経験を語っていた。
本当の自分を伝えることが出来ないことにより引き起こされる矛盾は想像以上に大きかったと思う。
また、ゼロから「自分」というものを作り直すような感覚だった。
自分自身の中では、過去と今が連続性を持っていて今の自分を作っている。
でも、他者から見たら、僕の過去は重要なピースががっぽり抜けてよく見えない。
誰にでも、言えない過去の1つや2つは存在する。
僕にもそれが1つ増えただけ。
そう割り切れない自分との葛藤が続いた。
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