自死遺族の叫び
もう何年も前の話である。
ひとつ若い命の灯火が、自らの手によって静かに消えて行った。
自身が籍を置く学び舎から身を投げたのは、まだ十代の若者だった。
詳しいとこは書けないが、高校を卒業し、東京の実家を離れて、ひとり海外の大学に留学していた中での惨事だった。
留学先から羽田行きの貨物機に乗せられ、「物質」と成り果てた悲しい帰国となってしまった。
晩秋の秋風と共に吹き去った、前途洋々のはずだった若い命。
最期の瞬間、彼女の目には一体どんな光景が見えていたのだろうか。。。
自宅に安置された遺体のそばを片時も離れず、生前同様に語りかける両親の姿が胸を締め付ける。
「こんな若さで死なせる為に、ここまで育ててきたんじゃないんですよ。こんな惨たらしい最期を迎える為に、海外の大学に進学させたわけじゃないんですよ。。。」
父親がくやしそうに絞り出した言葉が、むせ返るほど線香の煙の充満した部屋に、虚しく響き渡る。
どんなに嘆こうとも、死者が息を吹き返すことはない。
代々資産家の裕福な家庭だったこともあり、葬儀はそれなりに盛大だった。
自らの手で人生を終わらせてしまうような、不気味な黒い影など、微塵も感じさせない、楽器を片手に微笑む遺影の中の彼女は、ひときわ輝いて見えた。
通夜には故人が通っていた小中高一貫校の生徒が、大勢弔問に訪れてくれた。
皆神妙な面持ちで斎場に入ってくる。後輩だろうか、制服を着て親に支えられながら入ってくる女生徒もいる。
突然大切な友達を失い、泣きじゃくる同級生たち。疲労と動揺、色濃い悲しみの表情が交錯する。
しかし、良くも悪くも所詮は他人事だ。
焼香が終わって一息付けば、そこはたちまち即席の同窓会やクラス会の場となる。
外にはたちまちのうちにいくつもの輪が出来上がる。
彼らの表情から悲しみの色はとうに消え失せ、無邪気な笑顔と笑い声がこだまする。いつ終わるともない楽しげな再会の時間。
こんな時いつもの癖で故人の両親を探してしまうのは、私の悪い癖だ。
二階のお清め席の窓から、外の様子を微笑ましげに見つめる母親。
しかし、その裏にあるこの世のものとは思えないほど深い悲しみを、押し隠すことなど出来はしない。
あの輪の中に自分の子供もいるはずだった。しかし、いるはずの愛娘はもうそこにはいない。
愛娘のいない輪の中で、同じ年の同級生が、楽しそうに笑っている。彼らの眼前には前途洋々とした未来が広がっている。明日になれば彼らはまた、意気揚々と自分の生活へと戻っていく。この世から消えてしまった同級生のことなどすっかり忘れて。。。
だがどうだろう。
冷たい骸となり果て、棺に横たわる自分の娘は、もう二度とこの世でその声を、笑顔を、胸の鼓動を見ることはかなわない。
静かにレースのカーテンを閉めるその仕草に、やりきれない思いだけが暗い影を落とす。
母親の悲痛な叫びが、若者たちの笑い声とともに、暗い夜空に消えていった。。。
この一ヶ月後、母親は自宅の娘の部屋で首を吊った。
【助けれ上げられなくてごめんね…】
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