※この話の肝は『マーレイシュ』
こちらの記事に目を通してから、この記事をお読みください。
私が通っていたエジプトのとある大学での話。
ある日の午後一の講義は、少人数のフスハー(正則アラビア語-ムハンマド時代のアラビア語)の講義だった。
少人数だったこともあってか、何となく講義の前に集まり、連れ立って外に昼食を取りに行くのが通例となっていた。
その日はとても暑い日だった(いつもだが…)
昼食を取り、しばし休憩していると、
「海でも行きたいな」
誰とも無しに呟く。
(私の街は海沿いに広がっており、四六時中海に入ってはいたが…)
「行くか?」
みんなが相槌を打つ。
次の瞬間、我々の足は自然と海に向かっていた。
もうとっくに授業開始時間は過ぎていたが、照りつける暑さで脳が溶け、そこにいる人間がほぼ講義に参加する生徒全員だという事実を忘れてしまったらしい。
さすがに泳ぐ訳にはいかなかったが、ハーフパンツの裾をビチョビチョに濡らしながら、しばしエジプトの海を満喫した。
満足した我々は、真っ黒に日焼けした顔をほころばせながら、勢いよく教室のドアを開けた。
そこには・・・
教壇には鬼の形相をしたエジプト人女性が、ひとりポツンと立っていた。
言うまでもなく、この講義を担当している講師だ。
そそくさと席に着く私達。
一瞬不気味な静寂が教室を包み込む。
次の瞬間!
あんたたち、全員揃って遅刻するなんて、どういうことなの!?
彼女の雷が炸裂する。
ごもっとも!
授業に遅刻するなんて、アラブ人じゃあるまいし、先進諸国の民族のすることじゃないわよ!
アラブ人と比較されても困るが、言われてみれば確かに生徒は皆、日米欧の先進国出身者だ。
すんません。天気が良かったもので、つい海に行きたくなりましてね。それでちょいとばかし、バシャバシャやっちまいまして…
みんなを代表して私が経緯を説明する。
はっ!?天気が良いから海に行ってて授業に遅刻!?
夏のエジプトなんて毎日天気だわ!!!
彼女のプロメテウス火山が噴火した!
我々に出来ることと言えば、真夏の屋外とは対照的に、暴風雨の吹き荒れる教室で、嵐が過ぎるのをひたすら耐え忍ぶしかない。
ホントは一年中天気じゃないし・・・
一通り悪態をついた後、怒り冷めやらぬ彼女は、最後に大声でこう言い放った!
そもそも理解不能な理由で授業をすっぽかすなんて…
てめぇらエジプト人か!?
「マーレイシュ(ごめんなさい)」と呟き、うなだれる我々に、
「ドーント セイ マーレイシュ!!!(仕方ないって言うな!)」と叫ぶ姿は、もう講師と言うよりジャイアンそのもの1。
イスラム文化もへったくれも無い。
しかし内心は自国の文化ガン無視した挙句、外国人を自国民に例えて本気で罵倒するエジプト人の姿が、あまりに滑稽過ぎて、笑いを堪えるのに必死だったことを、今でも良く覚えている。
ちなみにその後、歯の痛みを和らげる為に、リラックス効果の高い香水を探しに行くという理解不能な理由で、彼女が2週間ほど講義を休講にしたところは、流石エジプト人と言ったことろだが・・・
それはまた別のお話。