イスラムと性的マイノリティ
イスラム世界において、ゲイやレズなどの性的マイノリティは受け入れられないのか?
そうだとするならその理由はどこに有り、今後彼らが正当な権利を獲得することは不可能なのか?
イスラム教徒と思われるアフガニスタン系アメリカ人による銃乱射事件を受けて、日本に住むムスリム(イスラム教徒)と、久々に飯を食った緊急対談を行った。
ハサン氏(仮名)大学ではイスラム文化史を専攻。現在は日本で大手商社に勤務。
留学生を世話するボランティアに就いていた為、留学中は何かとお世話になった。エジプト人。
イスラム対談
東京某所にあるレストラン
お久しぶりです。本日はよろしくお願いします。早速ですがアメリカで同国最悪の銃乱射事件が起きました。
もちろん知っている。私も大変心を痛めている。
イスラム教徒による、ホームグロウンテロとの見方がありますが?
ホームグロウン・テロリズム
一般的に、国内での居住歴が十分にあり、イスラーム過激派メンバーではないものの、その過激思想に共鳴して、それら過激派と同様の方向性のテロ行為を、国内で独自活動として引き起こすことを示す
今の段階でははっきりしないが、もしそうだとしたら、同じイスラム教徒として非常に残念に思う。アメリカと犠牲者の遺族に、心よりの哀悼の意を示したい。
単刀直入にお聞きしますが、イスラムでは同性愛は認められていない?
残念ながら、現状では『YES』だ。開祖ムハンマドや第4代カリフ・アリーが同性愛者を処刑したことなどが、規範となっている。
それはなぜか?
イスラムでは結婚は単なる子孫を残すためだけのものではない。性的営みを通して、男女間の性的補完こそ、理想の状態だと考える。性行為は単なる生殖活動を超えて、コミュニケーションと喜びをもたらすものと、考えられているだからだ。
同性愛者のそれは、男女間のセックスとは違うということか?
そう考えられている。つまり性的マイノリティ、とりわけゲイなどの同性愛者の存在は、神の作り出した秩序にそぐわない、異常な存在だというのがイスラムの考え方だ。だがそれはキリスト教・ユダヤ教の教義でも同じだ。
これは日本でも同じですが、確かに昔はそうだったかもしれません。しかし、少しずつですが理解が深まり、今では彼らを受け入れる土壌が育ちつつあります。イスラムだけがまだこの壁を乗り越えられていないように感じるのですが?
先進国を中心に、宗教離れが加速している。確かに彼らは衰退する宗教的観念の代わりに、台頭する人権主義など、宗教以外にも様々な倫理的・道徳的規範を確立し、この問題に対する新しいアプローチの方法を見つけつつあるのは事実だろう。
2015年6月26日、アメリカ連邦最高裁判所は同性婚を合憲とした。これによりアメリカ全州で同性婚が事実上、認められることとなった。
イスラムはまだそれが出来ていないと?
良い、悪いは別として、イスラムにおいてはそうした考えは希薄だ。実際に社会の悪として、同性愛者には厳しい罰が下される場合も多い。
具体的には、どの様な形で罰せられるのか?
イランやサウジアラビアでは、ソドミー罪などにより、死刑が言い渡されることも珍しくない。ISISなども同性愛を口実に死刑を実行している。
ソドミー罪とは?
明文化はされていないが・・・自然に反する性行為、つまり、肛門性交、口内性交、獣姦などだ。
(く、口もダメ・・・!?)
どうした?
い、いえ、何でもありません・・・これらの行為は、この世から排除すべき悪と考えられているわけですね…ところで、ご自身の出身地エジプトでは?
エジプトでは死刑こそないものの、摘発や逮捕は度々ある。私の友人にも実際そのような目に会った人間がいる。いずれにせよどの地域においても激しい迫害は避けられないだろう。
こうした事態にイスラムの指導者や人権活動家は、どの様な解決方法を見出そうとしているのか?
現在、イスラム指導者、反対派を含め、こうした性的マイノリティに手を差し伸べたり擁護することは、イスラムの規律上不可能だと認識されている。
ではこのままの状態が続くと?
残念ながらそういうことになる。しかし、過去イスラム国家では、こうした性的マイノリティに対して、寛容な時代があったのも事実だ。また、地域によっては疎外こそしているが、こうした人間たちを事実上黙認している場所もある。イスラム教徒の性的マイノリティも、黙っているわけではない。
権利を主張する活動は、確実に行われていると?
そうだ。実際ゲイのイスラム教徒たちは、イスラム共同体の中で、彼らの権利を認めるよう活動を活発化させている。トルコなどでは、ゲイ同士の結婚式も挙げられている。
なるほど。運動の更なる高まりを期待したいところですね。それでは最後にこの問題に関するあなた自身の見解を聞かせてください。
正直私もイスラムの一員として、性的マイノリティを異常者として、軽蔑してきた過去がある。しかし日本に来て、病気 (性同一性障害)だったり、彼らは彼らなりに、止むに止まれぬ事情や、大きな悩みを抱えて生きていることを知った。現実を知ることで考え方は変えられる。
日本に来て少し見方が変わったと?
完全とは言えないまでも、少なくとも以前とは少し違う見方が出来ている。
イスラムも現実に目を向けることで、変わっていけると?
その可能性は大きい。だが現実を知ったとして、誰だって間違いを認めるのは辛い。大切なのは現実から決して目をそむけず、間違っているなら変わる勇気だ。その勇気をイスラムが手に入れられるかどうかの問題だが。
世界が協力できることは?
日本人や宗教離れ著しい欧米の若者からすれば、神など存在せず、宗教とはそもそも人間が作ったものだから、時代背景や作った人間たちの思想により、間違いや時代錯誤が出てくるのは当然だと思うだろう。
しかし、我々は神は常に正しく、神の言葉を伝えたムハンマドもまた正しいと考える。ムハンマドが最後の預言者だと言われる所以だ。
だからもし性的マイノリティに対する扱いが間違ってるのなら、神やムハンマドの権威は守りつつ、あくまでも現代世界における我々の解釈のみが間違っていたと認めることになる。
と、言うと?
つまり近年の日本の憲法解釈と同様、苦しいか言い訳にしか聞こえないものとなる可能性は高いかも知れない。
つまり鍵はイスラムの指導者達が、自らの解釈の間違いを認める勇気を持つこと。そして神はもちろんムハンマドといった、偉大なる過去の指導者の威厳を保てる、うまいこじ付けを世界全体で考え、例えそれがひどいこじ付けであろうとも、それを飲み込む寛容さが必要だと?
あくまでも個人的な見解と捕らえてもらいたいのだが、率直に言えばそういうことになると思っている、
私もお互いに批判し合うのではなく、お互いの立場や思想を理解・尊重した上で、共に考えていくことは、西洋世界とイスラムの対立そのものを無くすことにも有効だと思います。
そのとおりだし、そう望んでいる。
また、日本は欧米諸国に属さない、数少ない世界の大国として、第三世界から高く評価されている。
欧米諸国より、発言に対する信頼が高いということか?
その通りだ。知っての通り欧米の意見は聞かないが、日本の意見なら聞いてみてもよいという風潮は有る。だから『現実』を発信する役目を、しっかり担ってもらいたい。
いち日本人として、肝に銘じておきます。また機会があれば、もう少し詳しくお話を聞かせてください。
分かった。異文化理解のために少しでも役に立てれば光栄だ。
本日は勉強になりました。急な呼び出しにも関わらず、お時間を頂きありがとうございました。
いいんだよ。ところで、この店の支払いは君のおごりで良いんだよな?
・・・・・・ハィ
懐には少々痛い対談だったが、有意義な時間だった(と信じたい!)
※あくまでも個人的な対談・見解です