暴走するイスラム過激派
イスラム国(ISIL・ISIS)が後藤健二さんと湯川遥菜さんの2人を拘束。
200億円の身代金を要求するなどしたが、紆余曲折を経て、2人とも殺害されるという最悪の結末を迎えた。
反イスラム勢力への支援
事の発端は日本政府が表明した支援策。
イスラム国に家を追われた難民などに対する、2億ドルの人道支的支援だが、これにイスラム国が反発したことから一連の事件が起きた。
イスラム国側の主張は以下の通り。
日本の首相へ。おまえは8500キロも離れていながら、自発的に十字軍に参加した。日本はわれわれの女性や子どもを殺害するのに、そしてイスラム教徒の家を破壊するのに、得意気に1億ドルを提供した。従って、この日本人の命には1億ドル掛かる。
そしてまた、イスラム国の拡大を止めるために、イスラム戦士と戦う背教者を養成するのに1億ドルを提供した。それで、こっちの日本人の命には別にもう1億ドル掛かる。
日本国民に告ぐ。おまえたちの政府はイスラム国と戦うのに2億ドル支払うという最も卑劣な決定をした。
おまえたちには、この日本人らの命を救うのに2億ドル支払うという賢明な判断をするよう政府に迫る時間が72時間ある。さもなければ、このナイフがおまえたちの悪夢となるだろう。
平和ボケした世界の財布
この主張に対し、日本政府や親族はあくまで人道的支援であり、軍事的な支援ではないことを全面に訴えながら、人質の無事救出に努めている。
しかし現実はそれほど甘くはない。
あまり良い例えではないが、男子校のとあるクラスに2つの派閥があったとしよう。
派閥Aの力が強くなり、派閥Bに対するいじめが始まる。そこで教師はBに対する、支援に乗り出した。
仮にも中立の立場の教師自らが率先して、「男の子は殴られたら殴り返せ!」などと言う訳にはいかない。
そこでカウンセリングなどの、非暴力的な事に対する名目で、B寄りの支援団体に資金援助をすると表明したとしたらどうだろう?
Aがそれならば良しとするだろうか?少なくとも私がAの派閥の人間なら、面白くは思わないだろう。
しかも教師は口では暴力を助長させることには、お金は使わないと言っていたとしても、教師にとってもAにとっても完全に把握できるものでも無い。
お金を受け取ったBが密かに格闘技を習うことに使っている可能性だって否定できない。Aの胸中穏やかざることは、想像に難くない。
日本は軍隊こそ提供していないが、言われるがままに西側諸国に資金を提供し、それがどういう解釈を持って、世界に受け止められるのかを理解していない。
日本は常にアメリカ寄りの政策を取っている。そのアメリカを中心とする有志国が軍事介入を強め、イスラム国に甚大なる損害を与えている。そうしたことへの焦りや危機感、苛立ちが、イスラム国にあの様な発言をさせたのだろう。
もちろん内部分裂を促したいとの思考も見て取れる。
アルカイダとのライバル争い
ライバルであるアルカイダ系イスラム過激派組織が、パリで大規模なテロを起こし、世界の注目を一手に集めたことも影響している。
実はイスラム過激派を影から支援している組織や個人は、世界中に大勢いる。
そうした人間たちにとって、支援の対象となるのは、もちろん最も自らの理想を叶えてくれそうな集団ということになる。
アルカイダに目立たれてしまっては、そうした人間からの資金をはじめとする援助が、十分に受けられなくなる。
再び世界の注目を自分達の元に引き戻す為には、国際社会がド肝を抜く様な事態が必要になる。日本人拉致と200億円の要求には、少なからずそうした意味が込められている。
人質殺害
イスラム国とてバカではない。
もしかしたらという思いはあっただろうが、現実的には200億円を日本政府が払うとは最初から思っていなかったはずだ。
だから途中から要求が変化していった。
イスラム国としては人質1人を殺害(湯川遥菜さん)し、もう1人(後藤健二さん)は非常に難易度の高い要求を日本側に突きつけ、あわよくば交換条件で後藤健二さんを日本に帰したかったのだろう。
かくしてヨルダンに囚われていたイスラム国の幹部と、後藤健二さんの交換が提示された。
しかしヨルダン政府がこれを拒否し交渉は決裂。後藤さんは殺害された。
イスラム国からすれば、幹部を奪還し、イスラム国殲滅に積極的に加担しているわけではない日本の感情をこれ以上刺激しないことと、もう1人も殺し、事件を大きくすると共に世界に向けて強い警告を発することは、どちらに転んでも大差なかったということだ。
イスラム国内部で求心力の低下が叫ばれはじめた時期でもあり、時間をかけて対応するくらいなら、さっさと殺してかたをつけようということだろう。
いずれにせよ、「日本人は特別」という時代はとっくの昔に過ぎ去ったということを、気も銘じておかなければならない。