ねむの木学園とは女優の宮城まり子さんが、静岡県掛川市に私財を投じて作った障害者施設で、現在75名が生活している。
絵画制作を中とした幅広い芸術活動を通して、世の中に彼らの生きている証を発信しており、日本はもとより海外でも精力的に美術展を開催し、高い評価を得ている。
そんな展覧会が開催されているとのことで、足を運んできた。
場所は銀座一丁目駅直結の銀座貿易ビルの5階にある東京銀座画廊・美術館。
エレベーターを降りると、さっそく宮城のり子さんの世界が広がる。
宮城まり子さんはもちろん、主な絵画の作者も常時案内を行っている。こじんまりとした展示会なので、実際に作家とじっくり「秘められた絵の心」を聞くことができるのも魅力だ。
しばし彼らの熱い思いに耳を傾けた。
小さな子供が展示スペースに置いてある、メッセージノートに書いた寄せ書きだ。
この世の枠組みは健常者によって作られている。挨拶の仕方から、メールの送り方まで世の中の殆どの物事にルールがあり、正解(正確には正解とされるものと言うべきか)がある。TPOにあわせた対応が求められ、それを逸脱すれば、たちまち出来損ないのレッテルを貼られる。
言うまでもなく、健常者のルールの下では多くの事柄においては、障害者が正解を出すことは難しい。
しかし、芸術は違う。正解がない。
だから彼らはその土俵で、自らの存在を、自らの考えを、自らの生きた証を残すことに必死なのだ。絵は彼らの魂の存在する場であり、社会に対する数少ない自己表現の場であり、戦いの舞台なのだ。
だからこそ魂のこもった彼らの描いた絵は人々の心を打つ。
そうした現実を幼い子の言葉は巧みに表している。
そうして見ると、彼らの描く大きくキャンパスを使った絵画でも、1年2年がかりで描かれた気の遠くなるほど緻密で絵でも、その多くに自分自身の姿が描かれている。
しかし、作家によっては全く自分が描かれていない作品もある。
「あなたは居ないんですか?」私が訪ねると、作家ははにかみながら、小さな絵の具の点を指差した。
点は点でも、まさに命懸けの「点」だ。
(美術館内は撮影禁止なので、ロビーに飾られた数枚の絵しか撮影することは出来ない)
ねむの木学園でメインを飾る作家のひとりが、笑いながら教えてくれる。
「絵を描く中で最も辛いのは、終灯後に一気に頭の中にアイデアが浮かんでくることがあるんです。描きたくて描きたくて居ても立っても居られなくなるんですが、集団生活なんでそれは許されないんですよ。次の日の朝まで記憶しておくのと、高ぶる気持ちを維持しておくのが大変です。」
思わず笑ってしまった。
シュールリアリズムやキュービズム、絵本の挿絵のような絵画まで、ひとりの作家が描く絵は実に多彩だが、誰かがその技法を教えているわけではないと聞いて、とても驚いた。
教えるのは3つだけ。
- 常にアンテナを張っていなさい。
- 描き始めたからには最後まで丁寧に仕上げなさい
- 自分の心に正直に描きなさい
この教えだけを大切に、普通なら描くことがない、分厚いキャンバスのヘリにまで丁寧に筆を走らせた魂の絵画。
挫折を味わい最近筆を取れるようになるまで、3年間絵を描くことができなかった画家。
「挫折を知ることは素晴らしいこと。だってそれは成長の証だから」
この言葉を信じて、挫折を乗り越えた画家・・・
そこには確かに彼らひとりひとりの世界が広がっている。
白のワイシャツに身を包み、誇らしげに佇む彼らの姿は、普段何かと哀れみ持って見られることの多い、障害者のそれではない。
「私たちは幸せです」という言葉に、幸せとはどんな形で生まれたかではない。「生き方だ」ということを教えてもらった。
残り少ない開催期間となったが、是非足を運んでみてはいかがだろうか?
【ねむの木学園のこどもたちとまり子美術展】
■期間:2016年5月1日(日)~5月29日(日)
■場所:東京銀座画廊美術館5F
■アクセス:銀座2丁目メルサ2 東京都中央区銀座2-7-18 日比谷線銀座駅徒歩3分、JR有楽町駅徒歩5分
■時間:10時~18時(会期中無休)
■料金:大人800円(高校生以下無料)