平成25年の犯罪白書から見るひき逃げ事故
平成25年の犯罪白書によると、軽傷・重症・死亡を合わせたひき逃げ事件は、9,699件だそうだ。
平成16年をピークに年々減少していることが唯一の救いだが、それでも1日平均30件弱のひき逃げが、全国で起きていることになる。
9割は軽傷だというのだが、それにしてもこの数には正直驚いた。
2014年7月13日北海道小樽市で4人の女性をひき逃げし、3人を死亡、1人に重賞を負わせたとして危険運転致死傷罪で起訴された海津雅英容疑者(31)の裁判が札幌地方裁判所で行われている。
注目を集めた裁判員裁判の結果は、求刑通り22年(危険運転致死傷罪)の有罪判決となったが、海津被告は危険運転致死傷罪は適用されないとして、控訴した。
この世に及んで往生際が悪過ぎる。
何よりも12時間酒を飲み続け、時速100㌔で4人もの人間を死傷させたのだから、懲役22年でも軽いと思うべきだ。
自分の罪の重さを自覚し、潔く危険運転致死傷罪を認めて、服役してもらいたい。
それが故人と遺族に対するせめてもの償いだ。
それにしても近年、この様な悪質なひき逃げ事故が多発しているのは、非常に気になるところだ。
近年発生した特に悪質なひき逃げ事件を4つほど振り返ってみたい。
小樽4人死傷ひき逃げ事件
2014年7月13日 北海道小樽市
海津雅英容疑者(当時31歳)が時速100㌔で運転する車に女性4人がはねられ3人が死亡、 1人が重傷を負った事故。
被害者は死亡が石崎 里枝さん(29)、瓦 裕子さん(30)、原野 沙耶佳さん(29)。頸椎骨折などの重傷を負ったのは中村 奈津子さん(30)。全員岩見沢市の岩見沢農業高等学校時代の同級生で、4人で遊びに来ていたことろ、事故に遭った。
海津容疑者は事故後4人を放置して逃走。コンビニでタバコを買うなどしていた後、電話をかけた友人に説得され、現場近くから100番通報。
直前まで12時間に渡って、ビーチで酒を飲んで いたことが判明。酒気帯び運転の3倍を上回るアルコールが検出された。
当初は自動車運転処罰法違反(過失致死傷)での起訴だったが、遺族の署名を通じて世論の高まりを痛感した当局が、危険運転致死傷罪での起訴に切り替えた経緯がある。
※年齢は事故当時
川口市役所職員ひき逃げ事件
2014年7月12日 埼玉県川口市
川口市役所の職員松村大貴 容疑者(26)の運転する車が、信号待ちをしていたミニバイクや軽乗用車に次々を追突、その後逃走した。
『ミニバイクの運転手がいない』と110番通報。
実は衝突した際にミニバイクを運転していた女性が、松村容疑者の車に巻き込まれたが、松村容疑者は女性を引きずったまま逃走。
女性は現場から1.3㌔の地点に放置されており、死亡が確認された。死亡したのは井口宣子さん(65)。
松村容疑者はそのまま逃走したが、翌日父親に 付き添われて出頭。「事故を起こして、気が動転して逃げた」と語っている。
また、飲酒運転を隠す為に事後飲酒を装った悪質な隠蔽工作も行っていたが、その後父親の経営する居酒屋で飲んだ挙げ句の、飲酒運転であったことが判明した。
アルコールを抜くために、公衆浴場に行った後に出頭したが、公衆浴場に行くことは父親が提案したとのこと。
『この親にして、この息子有り』と言ったところだが、事故を起こした時点で通報していたら、恐らく井口さんは死なずに済んだと思うと、実にやりきれない。
ちなみに【逃げ得】を防ぐ為、飲酒の隠蔽工作は厳罰化が進んだ。
子供を思っての親心は、逆に子供の罪を重くする結果となってしまたことは、何とも皮肉な結果だ。
※年齢は事故当時
小牧市トラックひき逃げ事件
2014年7月23日 愛知県小牧市
『壊れた自転車が路上に倒れていて、周囲に人の肉片のようなものが散乱している』
現場を通りかかったトラックのドライバー(74)からの通報を受け、愛知県警が現場に急行。
現場にはばらばらになった遺体や壊れた自転車、トマトやなすなどの野菜が数百メートルに渡って散乱していた。
調査の結果川本利光容疑者(65)の 運転するトラックが現場近くに住む女性(83)に衝突。380メートルに渡って引きずり、死亡させたことが判明。
犯人はそのまま逃走していたが、事故現場の近くで逮捕された。
その後の調べで被害者の女性が県道脇の畑で野菜を収穫後、自転車と共に道路を横断しようとして、トラックに跳ねられたことが判明。
しかし、容疑者に関しては拘留期限までに十分な証拠が得られなかったとして、一旦保釈された。
被害者の無念を晴らすため、地道な捜査が続いている。
※年齢は事故当時
上砂川町一家5人追突ひき逃げ事件
2015年6月6日 北海道上砂川町
谷越隆司容疑者(27)が運転するBMWと、古味竜一(26)容疑者が運転するピックアプトラックが、カーチェースをしながら赤信号の交差点に突入。青信号で交差点から出てきた軽ワゴンの側面に、谷越容疑者のBMWが衝突した。
軽ワゴンに乗っていた一家5人のうち、運転していた永桶弘一さん(44)、その妻の永桶文恵さん(44)、長女で高校3年生の女子高生・永桶恵さん(17)が死亡した。
次女で中学1年生の女子中学生・永桶光さん(12)が重体。
更に高校1年の長男昇太さん(16)が衝撃で車外に投げ出され、後から来たピックアップトラックに引っかかると、古味容疑者が昇太さんを振り落とす為、蛇行しながら1.5㌔引きずりながら逃走。
昇太さんは死亡が確認された。
谷越容疑者と古味容疑者は知人同士で、道内で飲酒した後、蛇行しながら100㌔を超えるスピードでカーチェースを繰り広げていたとのこと。
2人に酒を飲ませた飲食店の店主の元には「人殺し」との電話もかかってくるそうだが、北海道は広大な土地を移動する為の自家用車は必需品だ。
全国で最も飲酒死亡事故が多い北海道では、こうしたクルマ事情もあり、飲酒後の運転はそれ程珍しいものでもないという現実があるようだ。
一刻も早く解決しなければならない問題だが、対策は遅々として進まない。
北海道小樽市で海津容疑者によって娘を殺された遺族は、取材に対してこう答えている。
『娘の死は無駄だったのか?』
小樽から車で1-2時間の場所で起きたひき逃げ事故。飲酒運転の若者が、交通ルールを無視して、自分勝手に暴走した結果、複数の若い命が奪われる。
自分の娘が殺された事故にあまりにも酷似している。
1年も経たないうちに繰り返さらる悲劇を前に、思わず口をついて出た一言が、苦しい胸の内を如実に表している。
※年齢は事故当時
より良い交通社会を目指して
酒は飲んだら乗るな!は当たり前のことだが、飲酒運転にしろ、そうでないにしろ、残念ながら我々が生きている間に、人身事故が無くなることはないだろう。
私を含め車を運転する全ての人間が、被害者に成り得ると共に、加害者に成り得る。
考えたくは無いが、万にひとつも加害者になってしまった場合は、人としての最低限のプライドや品格は失わないよう、正しい行動を心がける必要がある。
間違ってもそのまま逃げるなどと言った、卑怯で最低の行動をとるようなドライバーがいなくなること、そして飲酒運転という悪しき行為が、完全になくなることを祈って止まない。
(勿論、そんな事態に巻き込まれぬよう、細心の注意をもって運転することが大前提でだが。)
事故で亡くなられた方々に謹んで哀悼の意を捧げると共に、 彼らの死が無駄にならないよう、より良い交通社会の実現を目指すことが、我々の使命に他ならない。