【とんでもない葬儀の話】
数年前のまだ私が葬儀屋になったばかり、ほんの駆け出しだったの頃の話。
東京の郊外にある古びた斎場。
年に数える程しか訪れることのないその斎場で、久しぶりに葬儀を行った。
普段からそれ程利用者の多くはない式場。夏の閑散期ということもあって、その斎場にあるいくつかの式場のうち、通夜をやっていたのは私達の式場だけだった。
通夜はしめやかに営まれた。
故人様は70代の女性。喪主様は40代の息子様。
無事に通夜が終わり会葬者は、通夜ぶるまいの食事の席へ。
ひと盛り上がりした後、ひとりまたひとりと家路につき、そのうちにお開きとなった。
最近では通夜晩に斎場に泊まらないご遺族も増えたが、最後だから喪主様は泊まりたいとおっしゃられたので、布団の手配等、お泊りの準備は済ませてあった。
片付けの支度をしていると、宿泊部屋に移動したはずの喪主様がひどく慌てた素振りで飛び出して来た。
駐車場の車に道具を積み込んでいる私達を見つけ、青い顔をしながら近づいて来た喪主様が、口早に筆問する。
私がそう言うと、喪主様が今にも泣きそうな声で呟く。
思わず聞き返す私に喪主様が、食い気味に言葉を重ねる。
いやいや、自分の親だろー!!!と思ったが、どうにも様子がおかしい。
吐き捨てる様に言い放つと、そのまま凄まじい勢いで宿泊部屋に入っていったかと思うと、これまた凄まじい勢いで荷物をまとめて飛び出してきた。
そして私達の元にやって来るなり、一気にまくしたてる。
そう言って慌てて車に乗り込み、走り去る。
ガリガリガリッ!
植込みの縁石に車のサイドスカートを擦らせたことなど、物ともせずに走り去る一台の車。
そして、いや~な沈黙に包まれる周辺一帯。
恐る恐る後ろにある何の変哲も無い(少なくとも我々にはそう見える)木を見上げるスタッフ一同。
私がそう呟いた次の瞬間!
パキッ!
カラカラカラッ!
木の枝が一本折れて落下すると同時に、冷たい何かが背中に触れたような気がした。
(|||ノ`□´)ノオオオォォォー!!
まるで示し合わせたかのように、全員が同時に悲鳴をあげた。
その後、私達が今まで見たこともないスピードで後片付けを済ませ、斎場を飛び出したことは言うまでもありません。
見えない体質だから良かったけど、あの時背中に感じた異様に冷たい「何か」を、今でも忘れることが出来ません。
頼むから成仏してくださいませ・・・
ナンマイダ ナンマイダ~泣
後日
ヘ(゚曲、゚;)ノ~ ヒィイイイイイ!!
【色すなわちこれ空なり】