【とんでもない葬儀屋の話】
私の勤める葬儀屋の社長は、結構なのおじいちゃん。
基本的に式は私に任せて、後ろで静かに見守っている様な、とても穏やかな人なのだが、昔は重くて大きな白木の祭壇を、一人で組んでしまうような 、とてつもなくパワフルな方で、 年を取ったとはいえ、そのパワーは今も健在。
たま~にスイッチが入ると、おじいちゃんとはとても思えない、とんでもないスピードとパワーを発揮する。
とある80代女性の葬儀。
告別式は進行し、最後に祭壇の花を会葬者みんなで棺の中に入れる「お別れの儀」へ。
喪主をお務めになられた故人の娘さんが、

そうお棺に語りかける。
待ってました!!!
私はすかさずは斎場の隅の方で、ちょこんとたたずむ社長をチラ見しながら、
そう言うと喪主様は、

と、おっしゃられて、そっと涙を拭われました。
そんな感動的なやり取りの横で、確かに何かのスイッチが入るのを私は肌で感じ取りました。
斎場の一番後ろで、穏やかに僕と喪主様のやり取りを聞いていた社長が、急にカッと目を見開き、
「はぁっ!!!」
と唸ったかと思うと、とんでもない勢いで外に飛び出していきました。
そしてモノの30秒もしないうちに、戻ってきた社長の手には、直径3cm、長さ1mはあろうかという立派な桜の木の枝が!

と言いながら、勢いよく桜の木の枝を喪主様に差し出す社長。
その見事さに驚きつつも、

そう言って何度も涙を拭いながら、 桜の花の沢山ついた枝を棺に納める喪主様。
会葬者のすすり泣く声だけが、静かに響き渡り、 再び大きな悲しみに包まれる会場。
その後、無事出棺の運びとなりました。
私達が外の門のところでお見送りする中、お棺を乗せた霊柩車は、無事火葬場へと旅立っていきました。
ここまででひとまず担当の仕事はひと段落。火葬場へは別のスタッフが同行してくれます。
他のスタッフと一緒に門の脇に立つ桜の木の下で、キレイに咲き誇った桜を眺めながら、 しみじみと会話する。


二人の見上げる先には・・・
見事に根元からボッキリ枝を折られた桜の木が・・・。
葬儀の生花を担当している、花屋のスタッフがやってくる。業界歴はそれほど長くはない。




「えー!?マジですか・・・」
花屋のスタッフも、根元からボッキリ折られたばかりの枝発見!!!

そうなんです。
キーワードは「桜」「キレイ」「咲く」。
昔からその言葉を聞くと、何故か社長、スイッチが入ってしまうんです。
この時期にしか見られない社長の必殺技。
これを見ると、
「春だな~♪」
って思うんですよね。
まぁ自分の会社の桜ですから、別にどうしようと勝手ですが、社長、くれぐれも貸し斎場とかでやらないでくださいね!
何はともあれ、遺族の方がとても喜んでくれたんで、 良かったんですが。
あちらの世界で、社長のへし折った桜でも見ながら、 心ゆくまでお花見を楽しんでいただけたら、桜の枝も折られた甲斐があったというものです。
日本人として咲き乱れる桜に見送られながら、静かに人生の幕を閉じられたなら、 こんなに幸せなことはないですね。
故人様の心からの哀悼の意を表して
合掌